体温と飛翔の関係、及び体温調節について 鳥の体温は哺乳類より高いが、高い体温は空を飛ぶという行動に 決定的な役割を果たしている。その役割と体温調節の仕組みを考える この記事は、私(荒井タダヒロ)が『レース鳩』誌2000年7月号に書いたものの再録です(一部訂正) |
●鳥の体温は40〜42度 日常的に鳩をつかんでいるレースマンは、鳥の体温が高いことを経験的によくご存知と思う。鳥の体温は一般に40〜42度の範囲にあり、多くの哺乳類より数度高い。鳥の体温が高いのは、これによって新陳代謝を促進させて、空を飛ぶという激しい運動に伴う大きなエネルギーを得るためである。また、自動車で言えば、いつでもただちに高速回転できるように常時アイドリング状態を保つ役割もある。したがって、鳥にとって高い体温は欠くことのできない機能である。 鳥類は、哺乳類と同じように体内で自ら熱を生産し、体温調節をする恒温動物である。恒温動物は外に熱が逃げないような機構を備えているが、鳥類の場合、羽毛がその働きにおいて重要な役割を担っている。 恒温性の長所は活動を一定に持続できることにあるが、エネルギー消費量も多く、それに見合ったエネルギー、つまり食糧をたくさん必要とする。鳥類の場合、体が小さいために大きな動物に比べて熱放散の割合が大きく、しかも哺乳類より高い体温を維持しなければならないので、体重の割りにたくさん食べなければならない。 ●恒温性が抱卵と育雛を生む 鳥は恒温性を獲得したことによって、ほかの動物とは異なる繁殖形態を持つにいたった。鳥類は、哺乳類のように子を体内で育て、ある程度大きくなってから産むという方向には進化しなかった。大きな子を体に抱えたままでは、体が重すぎてうまく飛ぶことができないからである。 そのため、鳥類はほかの多くの動物と同様、卵を産むという形態を選んだ。しかし、ほかの動物と違って、卵をそのまま放置することはせず、体温が一定である自らの体で卵を温める抱卵と、孵化したヒナを育てる育雛という形態を考えついたのである。その結果、産卵と育雛の段階で外敵からの安全性を高めることが可能となった。一般に鳥類の産む卵の数が爬虫類に比べて少ないのは、この安全性と密接な関係があると思われる。 ●鳥の足はラジエーター 恒温動物は、体温を下げる方法として一般に水分の蒸発方式をとっている。この場合、汗腺による体表からの蒸発方式と、パンティング(あえぎ呼吸)による蒸発方式がある。汗腺のない鳥や、犬のように全身をびっしりと毛でおおわれた哺乳類は、パンティングによって熱を放散する。レースマンには、鳥のパンティングはおなじみの行動だ(写真)。 パンティングでは口をあけて浅く早い呼吸を行ない、気道からの蒸発をさかんにして体を冷やす。パンティングのすぐれている点は、発汗と違って皮膚温をそのまま維持しながら、体の内部からの熱の発散ができることにある。 鳥はパンティング以外にも体温を下げるさまざまな機構を備えている。例えば羽毛におおわれていない足の表面温度はぐっと低く、コウノトリの場合、体温40度に対して足は15度くらい。このことは、足は放熱に最適の場所を提供していることを示している。筆者の経験でも、鳩の撮影のため、鳩を撮影ボックスに入れてしばらくすると、ボックス内に熱がこもって鳩がパンティングを始めることがある。その場合、足を水で冷やしてやると少しの間はパンティングが収まる。 高い気温や飛行によって体温が上昇したとき、鳥は足の血流を多くし、それを外気で冷やして体温を下げる。飛行中の代謝率は静止時の約10倍に達し、体温は約4度上昇する。したがって、飛行中の体温発散は不可欠で、セグロカモメの場合、飛行中の足に流れる血液量は静止時の3・5倍にもなる。 鳥はほかにも体温を下げるための生理的・行動的適応を行なっているが、それらのシステムは十分には解明されていない。 参考文献 森岡弘之ほか『現代の鳥類学』 太田次郎ほか『動物体の調節』 堀江格郎ほか『現代生物学』 樋口広芳『鳥の生態と進化』『鳥たちの生態学』 柴田敏隆『私の愛鳥講座』 加藤 勝『ホメオスタシスの謎』 |